藤田保健衛生大学の宮川剛教授による「日本版テニュアトラック制度」の提案が日本分子生物学会2013年年会組織委員会の「日本の科学を考える」サイトに掲載されています(2013-09-25付:安定性と競争性を担保する 日本版テニュアトラック制度の提案)。この提案では常勤・非常勤研究職にある大きな格差を原因とする、日本の研究界におけるマイナス点を端緒として、日本版テニュアトラック制度について述べられています。興味深く読みましたので、少しこれについて考えてみました。
まず、日本の研究界が抱える大きなマイナス点が2点挙げられています。それらは、1)研究力を持つ若手が参入しなくなる、2)「競争」のために生産性が削がれている、とのこと。これらの問題は任期付きを経験した方なら実感できるのではないでしょうか。少なくともソライツは自分が経験してきた任期付きライフを後輩に胸を張って勧めることはできませんし、生産性が削がれているという問題に関しては、ここでも書いた「任期でウチドメ!長期研究」ということが日常的に起こっています。また、『激しい「競争」にさらされているのは、主に非常勤の研究者でしかないということもあります』と書かれている通り、「アカデミックの歩き方(9)〜流動化の現実?」に取り上げたような状況があります。これらの問題に対処するための人事制度として「実績・評価で待遇が変化する安定したポジション(日本版テニュアトラック)」という提案がなされています。
提案では、
博士号を取得し、ある期間に一定の実績を上げることができた研究者は、原則的に任期なし常勤ポジション(テニュア)が与えられるような仕組みにすることですという大胆な発想が述べられています。提案のキモなので詳細はぜひ本文を読んでいただきたいのですが、失礼を承知で乱暴にまとめるなら、「研究費配分機関(JSTなど)に常勤職員として所属し、そこから受け入れ先研究機関に派遣される」という、大枠では派遣社員のような感じでしょうか? 『テニュア研究者自身がより良い条件を出してくれるPIを自分でみつけます』というところが派遣社員とは異なるように思えます(見つからない場合は派遣元が斡旋とのこと)が、このような制度であれば、派遣先で任期上限が来てもサイアク失業はしないわけで、少しは安心して(?)任期付きを続けることができそうです。この制度が最適解かどうかはわかりませんが、この方式なら安定性と競争性が担保されるかも、と思えます。
ここまで長くなりましたが、ソライツが最も興味深く感じた点を挙げておきます。提案では付け足しのような形で書かれていますが、以下のような提案も出されています。
博士号取得者は何も研究そのものをやる必要はないわけで、研究をサポートするような技術員トラック、事務系トラックや、教育トラックというものに入ることもできるようにしておきますこれは「研究業界に関わっていたいけど、その周辺部の業務に携わりたい!」という考えを持つソライツのような研究者にとっては非常に興味深い内容に思えました。
ソライツは、研究のわかる技術職として開発を主な業務として行いたい!という希望があり、現在は幸運にもそのような職に就いていますが、たどり着くのに結局10年かかりました(実際はその10年で徐々に方向が定まったのですが)。現在の制度では研究職を目指してしまうと他業種(提案中での技術、事務、教育)に行くのは難しい印象があり、それに対して提案の制度があれば、若い方が多様なキャリアパスも考えられるのかなと思うと楽しくなります(^^)。学位を持ち現場での研究経験がある広報とかが誕生したら、最近話題の多いサイエンスコミュニケーション的にもきっと面白いんじゃないかと思います(現在そのような方がどの程度いるかわかりませんが…)。
提案の最後に
現在よりも研究者が研究にしっかり集中できるようにし、限られた資源が有効に使われるような仕組みに改善することが大切と書かれています。それと同じようなことを現場で常に感じてきた末端の研究者として、このような取り組みが進めばいいなと思います。